臆病者で何が悪い!
杉並木を歩ききって、車を停めてある駐車場に戻るため芦ノ湖の遊覧船にのった。デッキから見渡せるのは、湖周辺の自然と、そして大きな富士山だ。
「寒くないか?」
「大丈夫――」
そう言い終わる前に、生田が私の首に自分のマフラーを巻き付けて来た。
「いいよ、大丈夫。生田が寒くなっちゃう」
「いいから。おとなしく巻き付けとけ。おまえの首筋、見てるこっちが寒々しくて」
家の前に迎えが来たからか、マフラーを巻いて来るのを忘れてしまった。私の短い髪が、生田にそう思わせてしまったのかもしれない。
「じゃあ、遠慮なく」
生田のマフラーは私の顔の半分くらいを埋めてしまいそうなほどに大きく感じた。生田の匂いがする。
駐車場に戻り、車を走らせると、次に到着した場所は純和風の建物だった。箱根にはたくさんの温泉宿があるけれど、その中でもひときわ高級そうで怯んでしまう。
「あ、あの……ここ、高そうだけど」
出迎えに現れた従業員たちも、皆恐ろしいほどに品がいい。
「大丈夫だから。おいで」
車の助手席のドアを開け、私の手を引く。こじんまりとした建物が、より一層特別感を醸し出していた。生田にただ手を引かれて旅館に足を踏み入れる。華美過ぎることもなく、だからといって殺風景でもない、その絶妙なバランスにセンスの良さを感る。純和風なのにどこかモダンなインテリアに、ただただ目を奪われた。でも、驚くのはまだ早かった。
「え、ええ……っ!」
案内された部屋に入り、担当の仲居さんが出て行った途端に声を上げてしまった。和室の先には大きなテラスがある。そのテラスの横に、露天風呂があった。
これが、露天風呂付客室ってやつですか――!