臆病者で何が悪い!

どうしよう、どうしよう。

「なかなかいい部屋だな」

テラスへと進んで行く生田の背中に向かって叫んでいた。

「ど、どうして露天風呂付の部屋なんかにっ!」

「どうして? そんなの決まってるだろ。一緒に入るためだよ」

さらっと言ってのける生田に、恐怖を感じる。

一緒に入るだって?
本気で言ってる?

まだ、そんな勇気はない。身体を重ねるようになって間もないし。全然生田の裸なんて見慣れてないし。それより何より、この身体をあけっぴろげに晒す覚悟なんてないんですけど!

「ちょ、ちょっと、生田。イヤラシイよ。下心あり過ぎ……」

どんな反応をしていいのか分からず、引きつった顔で冗談まじりに言ってみるも、生田はお構いなしだ。

「当たり前だろ。男なんて、常に下心で動いてるもんだ」

「でも、でも」

超モダンな和室の真ん中で、場違い感丸出しで固まる私に生田が振り返った。

「この部屋、気に入らなかった?」

そ、そんなこと――あるわけない。

こんな、私にはもったいない場所に連れて来てくれて。

「実は、一番のサプライズだったんだけど……」

また、そんな顔してさ。そんな風に言われたら何でも許してしまうではないか。

「生田、ズルイ……。嬉しいに決まってるじゃん」

ぼそぼそと呟く私に、生田が近付いて来る。

「……良かった」

そう囁いて私を抱きしめた。生田の胸に頬を押し付けられる。

「最近気づいたんだけど――」

私の身体を強く抱き寄せながら、一段と低い声で囁いた。

「俺って、結構、欲望にまみれた男だったみたいだ」

「な、何言ってんのよっ」

もう、無理。完敗。あなたには負けました。どうにでも、してください。
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