臆病者で何が悪い!
生田に後ろから抱きしめられながら、窓の向こうを眺める。その視界にどうしても露天風呂が入って来てしまうが、極力美しい景色に目を向けるようにした。テラスの向こうは、箱根の山々が連なっている。窓一杯に広がる雄大な景色は、それだけでもう部屋の一部だ。いつまででも見ていられる。
こんな、優雅な気分にさせてもらって、私、大丈夫か?
現実に戻れるのか?
幸せ過ぎて、実は夢だったとかないか?
幸せを味わうことに慣れていない人間は、こういう時にあたふたとする。
「ねぇ、生田。ここ、高かったんじゃない?」
「そんなこと、おまえは気にするなよ。クリスマスプレゼントだし、それに、ほら、ボーナス出たばかりだろ?」
「そうだけど……」
それに、こうして誰かに何かを贈られるのにも慣れていない。だから、素直に可愛く『ありがとう』言えずに、心配ばかりしてしまうのだ。
「もういいから。それより、おまえが喜んでくれれば俺はそれが一番嬉しい」
生田が私の肩に顔を載せる。
「嬉しい。凄く……」
幸せ過ぎて怖くなるくらい。
「じゃあ、俺の顔見ながらそう言って……?」
そう言いながら私の顎に手を掛けた。そして、ゆっくりと生田の方へと動かす。そうして交わった生田の視線は、もう甘くて甘くてこの唇が勝手に動く。
「嬉しいよ――」
生田の視線が私の目から外れそのまま下へと動くと、唇を塞がれた。
「沙都……」
まるで愛撫しているような口付けで、合間合間に私の名前を呼んだ。