臆病者で何が悪い!
そのままの流れで一緒に部屋の露天風呂に入れられそうになって、慌ててそれだけは阻止した。とりあえずは、一人で大浴場に入って心を落ち着けたい。それから、いろいろと確認したい。
大丈夫、だよね――?
さすがに、最近は身体のケアは怠らないようにはしているけれど。今度ばかりは、お風呂だ。
少なくとも、空が暗くなるまでは時間を引っ張ろう。明るい中一緒にお風呂に入るなんて、考えただけで心臓が壊れる。大浴場と言っても、部屋数の少ないこの旅館の温泉はこぶりのものだった。でも、宿泊客が少ないから、ゆっくりと落ち着いて入れそうだ。脱衣所に浴衣を置き、トイレに入る。
あ――。
私から血の気がさあっと引いて行く。
嘘……。何もこのタイミングで……。
今置いたばかりの浴衣を急いで手に取り、元来た道を戻る。予定では、もう少し先のはずだったのに。
どうして、今日なのっ!
誰に怒っていいのか分からないのに、この悔しさと申し訳なさをどこかに吐きださずにはいられない。念のために、常に準備はしていたから大丈夫だけれど、でも、生田に何て言えばいいのか。
部屋に戻り頭を抱える。月のものになってしまった。
とりあえず部屋のお風呂に入って、着替えないと。
私は今、大浴場に行っていることになっている。露天風呂ではない、部屋の中にあるユニットバスに入り、浴衣を着た。こういう旅館の浴衣は、おそろしくお洒落だ。間違っても旅館名なんて印刷されていない。大人っぽい深い紫色の浴衣。本当だったら気分が上がりそうな素敵な浴衣なのに。鏡に映る私の顔は、この世の終わりのような顔をしている。生田が大金をはたいてこんな素敵な旅館を予約してくれたのに。それに、露天風呂なんかついている部屋に来たというのに。二人の初めての旅行なのに。
『一緒に入るために決まってるだろ』
さっきの生田の言葉が脳内に響いては、頭を抱えて目を閉じる。
どうしよう。生田になんて言えば……。
絶対にがっかりするよね。溜息とか目の前で吐かれたら、どうしよう。
『ちっ』
ただの達也の部屋ですら、求められた時に『生理だから』って言ったら舌打ちされた。
しまいには、その時は来るな、というようなことを遠回しに言われたっけ。あれって、結構哀しくなるものだ。
今回なんて特別な日なのに……。
考えれば考えるほど落ち込んで行く。
ごめん、生田――。