臆病者で何が悪い!
ガチャ――。玄関の方から鍵が開けられる音がした。
帰って来た――!
身体がビクッとする。
「おい、いるのか?」
生田が声を発しながら部屋へと入って来た。生田の顔を見ることが出来なくて、和室の片隅で正座したまま振り返ることも出来ない。
「なんだ、先に戻ってたのか。おまえの方が遅いと思ってたから、少し待ったよ」
「ご、ごめんっ」
畳を歩く生田の足音が私へと近付いて来る。
「女風呂はどうだった? 気持ち良かったか?」
「あ、う、うん……」
「部屋に露天風呂があるんだからわざわざ大浴場に行かなくてもって思ったけど、なかなか良かったな。でも――」
うっ――。生田が私の肩に手を掛ける。
「後で、必ずそこの露天風呂に入るからな」
わざと耳元で吐息を漏らすように言った。ぴくりと肩を強張らせる。
「それにしても、浴衣姿、色っぽいな。特に、このうなじとか――」
私の肩に手をかけたまま生田の唇が私の首筋に触れる。
「おまえ、髪が短いから、うなじにそのまま吸いつきたくなる……」
「ちょ、ちょっと待って……。い、生田――」
「ん? どうした……?」
生田の腕が私の胸に回され、首の後ろを唇が這いずり回る。その唇の熱い感触が、私の身体を溶かそうとするけれど、私は別の意味で緊張が高まる。
今のうちに、言わないと――。
「浴衣、すごく似合ってる。だから、こっち向いて。正面から見せて――」
吐息交じりの掠れた声。その声を聞けば聞くほど、心臓がバクバクと激しく動く。
「あっ」
強い力で抱き寄せられて、生田の胸に倒れ込んだ。生田の腕が私の上半身を支えて、見下ろされて。その生田の目があまりに熱っぽくて、余計に私は何も言えなくなる。
「綺麗だ……。今、俺の中でせめぎ合ってる。綺麗だからその姿を見ていたいって気持ちと、合わせた胸元を開きたいって欲望で」
「あ、あの……っ」
もう、泣きたくなる。
「でも、そんな風に目を潤ませられたら、やっぱりその綺麗な浴衣も剥ぎ取りたくなるな」
そのまま生田の顔が落ちて来る。それと同時に優しいキスも降って来て。最初は優しかった唇も、次第に熱を帯びて来た。
「……ごめんな。せっかく綺麗に着たのに。もう、脱がせたい。浴衣を着て乱れたおまえが見たい……」
もう、だめだ。言わなきゃ――。
私を抱く生田の腕が熱くて、その熱が私の胸を締め付ける。