臆病者で何が悪い!
「い、生田、ごめんねっ」
「……なにが?」
泣きそうになりながらそう言っても、生田の唇が私の耳元をなぶるのをやめようとしない。
「ごめんなさいっ!」
耐えられなくなって、生田の胸を思いっきり押しのけた。
「沙、都……?」
後ろ手を畳に付いた生田が驚いたように私を見ている。その目が驚きだけではないのに気付いてしまう。
「ご、ごめん。私……」
「今日は、気が乗らなかったか? ごめん、俺一人で勝手に突っ走り過ぎた」
「ち、違うの」
生田が無理になんでもないような表情を作っているのを見て、私は咄嗟に生田の腕を掴んだ。
「私、さっき、せ、生理になっちゃって!」
いたたまれない。どうしようもなく、いたたまれない。生田の顔を見られない。
きっと、凄くテンション下がったよね――。
そんな生田の表情を見る勇気はなかった。
「ごめん。生田、ごめん――」
「バカ」
膝の上の浴衣を強く握り締めて下を向いていた私を何かがふわっと包み込む。
「なんでそんなに謝るんだよ。そんなの、仕方がないことだろ?」
「で、でも、露天風呂も、それにせっかく旅館なのに……」
生田に応えてあげられない――。
「いいんだよ、そんなこと。俺が勝手に計画して連れて来たんだ。おまえが申し訳なく思うことなんてないよ」
優しく私の頭を撫でる。そして、優しく労わるように言葉をかけてくれる。
「でも、楽しみにしてたんじゃ――」
「ああ、まあ、そうだけど。でも、こうして二人で来られたことが一番楽しいし。露天風呂だってまた来ればいいだけのことだ。これから何度だって一緒に来られるだろう? だから、そんな捨てられた子犬みたいな顔するな……」
生田が私の肩をそっと掴み、俯いたままの私の顔を覗き込んで来る。