臆病者で何が悪い!

「な? 俺の顔、見て?」

恐る恐る顔を上げる。そこには、優しく見つめてくれる生田の目があった。

「俺の方こそ、ごめんな。俺が浮かれ過ぎたからだろ? 一緒に入るんだとかなんとか言って。それで、そんなに自分を責めたんだろ。可哀想なことした」

私はふるふると頭を振った。泣きたくなる。今度はさっきとは違う理由だ。

「旅館の楽しみは風呂だけじゃない。ここ、料理も相当美味いらしいぞ?」

私の身体からそっと離れると、生田が笑った。

「楽しみだな」

「うん」

だから、私も笑って生田を見る。いつもより明るい声を出す生田の心遣いが心に沁み渡って行く。

「その前に、何か飲むか?」

立ち上がって、部屋に置かれているコーヒーメーカーやお茶がある棚へと生田が歩き出した。

「私が――」

「いいから、おまえは座ってろ」

私、こんなに大事にされる価値ある女でしょうか。誰にもこんな風に扱ってもらったことがなくて、分からないのだ。生田の優しさと、殺人的に似合い過ぎる浴衣姿にクラクラとして、その後の夕食中も夢うつつだった。
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