臆病者で何が悪い!
部屋で出された夕食は、生田の言う通り絶品だった。海の幸も山の幸もふんだんに使われていて。見た目にも楽しめる創作料理。そして、美味しいお酒を飲みながら、たくさん話した。その間中も生田は、少しも不機嫌な表情をしたりしなかった。
「これなら素人にも作れそうかな」
「生田って、本当に料理が好きなんだね?」
出て来た料理の一つに目を留めて生田が言った。
「好きだっていう意識はなかったけど、確かに、作ってみたいって思うってことは好きなのかな」
「そうだよ。生田の料理、いつも凄くおいしくて。怖くて生田に料理出せない」
そう言って笑うと、生田が真顔になった。
「そんなこと思ってたのか? 勝手にそんなこと思うな。俺は、おまえの作ったものなら何だって食べたいよ」
「そ、そう?」
「ああ。だから、作ってくれ」
じゃあ、少しは頑張ってみようかな。
料理を食べ終えると、仲居さんがすべて片づけて行った。隣の部屋の和室には、布団が二組並んで敷いてある。
「いつもならあれくらいの量なんてことないのに、少し酔いが回ったかな」
生田がそう言うと、上着を羽織り出した。
「ちょっと、酔いを醒ましてくる。沙都は先に横になっててもいいからな」
「う、うん」
笑顔を私に向けると、生田は部屋を出て行った。もう一度隣の部屋の布団を見つめる。
私だって――。
生田だけじゃない。生田に抱かれるようになって、私だって生田に触れられたいって思うようになった。生田と肌を合わせたいって欲望にまみれてるよ。
だから、今日だって。本当は、生田に抱かれたいと思っていたのかもしれない。胸の奥がぎゅっと苦しくなって、思わず胸元の浴衣を握り締めた。和室の窓際へと立つ。窓の外は明かり一つなくて、真っ暗だ。明るいうちは見えた山々も闇に埋もれて消えている。一人でこの部屋に立つと、寂しさを感じ始めていた。
生田、早く帰って来ないかな――。
窓にこつんと額を当てる。テラス横にある露天風呂の水面に、月がゆらゆらと浮かんでいた。