臆病者で何が悪い!
「あれ……。まだ、寝てなかったのか?」
少し顔を赤くした生田が部屋に戻って来た。
「外、寒かったでしょう?」
「そうだな。やっぱり東京とは違うな」
上着を脱ぎながら、そう言った。
「私も、テラスに出てみようかな……」
この身体にくすぶる熱を冷ましたい。
「やめた方がいいんじゃないのか? 本当に寒いぞ。身体冷やすの良くないだろ?」
窓際に立つ私の元に生田が近づいて来る。
「少しくらいなら大丈夫だよ。それに、テラスだよ? 寒くなったらすぐに部屋に戻ればいいだけ」
「じゃあ、俺も一緒に出るよ」
生田がテラスへと出られるドアを開ける。少し開けただけで、刺すような冷気が部屋に入り込んで来た。テラスに立ち空を見上げると、こうこうと照る月が大きく見えた。
「今日の月、大きいね」
そう言って生田に顔を向けると、さっき生田が来ていた上着を肩に掛けてくれた。
「本当だな。大きすぎて見てると吸い込まれそうだ」
生田も空を見上げている。私はその横顔をじっと見つめた。その横顔を見るだけで、苦しくなる。
田崎さんの横顔を見つめていた時のものとは、まるで違うーー。
あれだけ抗って来たけれど、私はまた恋をすることが出来たんだね。それは全部、生田のおかげだ。
「そろそろ部屋に入ろうか」
「そうだね」
二人で顔を見合わせて、部屋へと戻る。もう、その後にすることは、あの布団の敷いてある部屋に行くだけだ。並んで敷いてある布団にそれぞれ寝ることになるのかと思うと、たまらなく寂しく感じる。私、いつからこんなにも生田に触れたいって思うようになっていたんだろう。先に布団に入った生田がいる和室へと、私も後から足を踏み入れた。