臆病者で何が悪い!
その夜、『出張から帰ったら大事な話がある』と沙都に伝えた。
本当はすぐにでも言ってしまいたかったけれど、そんな大事なことだけ打ち明けて一週間離れるというのは俺としては嫌だった。
それに、こんな風に少し酒が入っている状態で言うのも嫌だったし、正式にプロポーズをしたかったのだ。
出張を終えてやるべきことを済ませてから、その場をきちんと整えたい。
二人にとって人生に一度のこと。
沙都にも、プロポーズされるということは特別なことだろうから、出来る限りのことをしたいと思った。
たまらなく好きで。どうしようもないほどに愛している。
俺にこんな感情を教えてくれたのは沙都だ。
何かにこんなに苦しくなるのも、切なくなるのも。やるせなくなるのも。
そして、心から好きな人と一緒にいられることがこんなにも幸せなことだってことも、
そんな人として感じる感情を沙都が俺に与えてくれた。
その熱くなった素肌を強くきつく抱きしめる。
「好きだ。だから――」
俺の申し出に、イエスと言ってくれ――。
こんなにも近くにいる。今この瞬間、確かにつながっている。だからこの先も、ずっと。
二人で笑っていよう。時折喧嘩したりして。でも、結局笑うんだ。
目が回るほどのタイトなスケジュールの出張を終え、やっとこの日がやって来た。
早く来てほしいような怖いような。
複雑な心境に、自分でも緊張が高まっていくのが分かって落ち着かなかった。
羽田空港に着いてからすぐに婚約指輪を取りに行き、そして待ち合わせの場所品川駅へと向かう。
その間にも、品川のホテルの最上階にあるレストランに最終確認の電話を入れた。
これからの二人には、仕事のことやそのほかのこと、考えなければならないことは山ほどあるけれど――。
とにもかくにも、沙都の笑顔を見たい。
笑顔を見せてほしい。
そろそろ待ち合わせ場所に到着しようかというところに、メールが届いた。
片手にはスーツケース、もう片方の手には指輪の入った紙袋。スマホを取り出すのにも一苦労だ。ターミナル駅には時間を問わずたくさんの人が行き交う。人波から離れて立ち止まり、スマホを見た。そのメールを表示させたと同時に、俺は自分の目を疑った。
え――?
(今日、急用で行けなくなりました。ごめん)
素っ気なくて、それでいてとてつもなく重大なメールだ。
急用って、なんだよ……。
何か、あったのか――?
いつもよりメールが短い。もしかしたら、悠長にメールなんてうっている余裕がないほど何か大変なことが起きたのかもしれない。
そう思うと、沙都のことが心配でたまらなくなった。
家族に? もしかして、沙都本人――。
何の情報もない分、悪い予感ばかりが広がって不安になる。
出てもらえない可能性の方が高いとは思いつつ、沙都に電話をせずにはいられなかった。
――。
予想通り、電話が繋がることはなかった。
一体何があった――?
週末の夕方、押し流されそうなほどの人たちの中で、俺は立ち尽くした。