臆病者で何が悪い!
九月の初旬、私と生田で参加することになっていた研修会の日が来た。
研修は朝の9時から17時まで、みっちりまる一日行われることになっていた。そのため、直行直帰でいいと上司に言われている。最初は、こんな研修面倒だと思っていたけれど、『直帰でいい』と言われて得した気分になった。もし職場にいれば、17時で帰るなんて不可能だ。まだ明るいうちに帰れるなんて、年に何度あることか。
生田とは現地で待ち合わせていた。
9月に入ったというのに、死ぬほど暑い。都会の真ん中は、ビル熱のせいでその熱が身体に向かって来る。
東京駅からほど近い高層のオフィスビル。汗を拭いつつ、一階のロビーに向かう。約束の5分前にそこに着くと、既に生田の姿があった。
スマホを見ているでもなく、真っ直ぐとどこかを見ていた。その立ち姿と横顔に、不覚にも一瞬見惚れてしまう。
言葉を交わさなければ、やっぱり生田はかっこいい。すらりとした背格好。こうしてまじまじと見ると、スタイルがいいことに気付く。ほどよく整えられた黒髪は、彼のクールさを引き立たせている。
ホント、口を開かなければ文句なしのイケメンなのに――。
そんなことを思っていると、生田の視線がこちらに向けられた。慌てて、生田の元へと駆け寄る。
「おはよう」
「ああ。じゃあ、行くぞ」
その長身がすっと身を翻した。
もっと笑顔で、「おお、おはよう!」とかそういうのないのかね……。
まあ、生田にそんなものを求めても仕方がない。その背中に続いて歩き出した。
会場は、高層階にある大会議場。研修内容としては、ただ座って講演を聞いているというもの。
それが延々続くとあっては、こちらの集中力も途切れてくる。決して、面白おかしい内容ではない。
大真面目な話だからちゃんと聞いておかなければと思えば思うほど、睡魔がやって来てしまう。隣に座る生田は、(いつものように)大して面白くもなさそうな顔で聞いていて、時おりメモを取っているようだ。私も、眠気を遠ざけるために、意地になってメモを書いていた。それはもう、メモというより議事録に近い。一言一句を聞き写す。何かをしていないと、絶対に寝てしまう。