臆病者で何が悪い!
無限に続くと思われた講演も、ようやく終わりを迎えた。心底疲れた。仕事してるより、よっぽど疲れたかも……。皆が席を立ち帰路につく中、無意識のうちに肩をぐるぐると回していた。
「お疲れ様でした」
少し前を歩く生田にそう声を掛けた。
「内野もな。あんた、寝そうで寝なかったな」
「そりゃあ、仕事だもん。寝るわけないじゃん!」
私の反論に、生田がふっと笑った。
エレベーターにぎゅうぎゅうに押し込まれて、生田の背中に急に押し付けられた。なるべく生田に触れないようにと頑張るけれど、後ろから絶え間なく押される。会場に集まった人たちを大量に一階まで運ばなければならないのだから、定員いっぱいのエレベーターに乗るのは仕方ない。さらにどっと人が入り込んで来て、その拍子に生田に勢いよくぶつかってしまった。前には生田、後ろにはたくさんの人。完全に挟まれてしまった。
「ごめんねっ」
慌てて生田から離れようとした時、突然腕を掴まれた。
「え……っ」
腕を掴まれたままエレベーターの壁際へと身体を移され、その真正面に生田が立つ。
それによって、たくさんの人から隔離された状態になった。
「あ、あの……」
これって、人波から守ってくれたのだろうか……。
「あ、ありがと」
とりあえず、お礼を言っておく。それに対して言葉は返ってこなかったけれど、目の前には生田の身体があるわけで。こんなに生田と密着などしたことはなく、どうしたって緊張してしまう。生田にしてみれば、自然と出た行動なのだろう。でも、私はこんな風に”守られる”のに慣れていない。慣れない状況だと、本当に私は弱くて。ただじっと黙ったまま身を小さくしていた。
大きな箱が猛スピードで地へと下りて行く。ふわりとした感覚が、鮮明になって。一階へとたどり着いたときには、身体がどことなく心許なくなった。人の波に沿ってエレベーターから出ると、ようやく身体が楽になった。
「凄い人だったね。ありがとう」
改めて生田にお礼を言うと、「どういたしまして」と抑揚のない声が返って来た。