臆病者で何が悪い!
「じゃあ、私、急ぐから」
もう、みっともなくたってどうだっていい。この場から逃げ出したくて、達也の横をすり抜けた。一刻も早く、少しでも遠くに、達也から離れたい。それしかもう頭になかった。思い出さないように。そうやってこの四年やって来たのに。
誘発されたように、不意に蘇ってくる。
達也にゴミ屑みたいに捨てられて、一人公園のベンチで泣いたあの夕方の光景――。そう、ちょうど今のように晩夏の夕方だった。
「おい!」
懸命に足を前に出して。行き交うビジネスマンたちをよけながら、ただ足早に駆け抜ける――。
「内野、待て!」
後ろから張り上げた声で呼ばれて、ようやく我に返った。
そして、それと同時に思い出す。そうだ、生田がいた。それすら頭から消え去っていた。慌てて、立ち止まり後ろを振り向く。
日頃は走ったりするイメージがまったくない生田が、さっさと逃げ出してしまった私を追いかけてきたようだ。少し、生田の呼吸が荒くなっている。
「ご、ごめん。今日は直帰でいいんだよね。私が補佐に連絡しておく。私、駅こっちだから、じゃあ、お疲れ様」
元カレとの再会の場面に生田がいたという事実に、新たな恥ずかしさがうまれて来る。おそらく、今の私は動揺しまくっているのが顔にも出ているだろう。いつもの私じゃいられないし、もう生田とも別れたかった。だから、一方的に喋り立てて、ちょうど目の前にある地下鉄の駅へと逃げるように駆け込もうとした。
「内野。どうせこの後、ヒマだよな?」
「……え?」
地下鉄の駅の出入り口の階段を、三段ほど下りたところだった。背中に放たれた生田の言葉に、思わずもう一度振り向く。
「家帰ったって、何もすることなんてないだろう?」
「はぁ?」
”どうせ”とか”ヒマ”とか、失礼なことを……。
訝し気に生田の顔を見ていると、思いもよらないことを言い出した。
「少し付き合えよ」
「え?」
私、『ヒマ』だとも『そのまま家に帰る』とも『何もすることない』とも言ってないんですけど。
「ちょ、ちょっと」
承諾なんてしたつもりもないのに、生田は勝手に歩き出してしまった。