蜜月なカノジョ(番外編追加)


「杏っ!!!!!!」


バアンッ!!! という凄まじい音と共にナオさんがスタッフルームへと駆け込んできた。その姿は私がよく知るナオさんだけれど、全身汗だくで髪も服も乱れている姿はある意味では初めて見るナオさんだった。

「ナオさんっ…? ど、どうされたんですか? 何か…」
「はぁっはぁっはぁっ…ど、どうしたって、朝起きたら杏がいなくて、もしかしたら出て行ったんじゃないかって、それでっ…」
「えっ…」

ぜぇはぁ息を切らしながら必死になっているその姿に私は目を丸くするばかり。こんなナオさん見たことない。

…ううん、違う。何度も見たことがあるじゃない。
いつもは冷静沈着なナオさんが、私のことになると途端に冷静じゃいられなくなるその姿を、これまで何度だって。

「ご、ごめんなさい。起きたらもう仕事に行く時間だったから…ナオさんはぐっすり寝てたし、それで…」

夕べあんなにショックなことがあったのに。あんなに泣いたのに。
気が付けば私はいつも通りぐっすりと眠っていた。
そしてそんな私をいつも通りに、ううん、いつも以上に強く抱きしめた状態でナオさんも眠っていた。いつもなら必ずナオさんの方が先に起きているけど、今日は私が腕から抜け出しても目を開けることはなかった。よほど疲れていたのだろうと思うとツキンと胸が痛んだ。

…けれど、自分をこの上なく安心させてくれるこの腕がやはり愛おしいとも思った。

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