HARUKA~恋~
人に合わせなくて良いのは久しぶりで、少し快適だった。

その快適さと引き換えに、私はカレシという、大切な心の安定剤を手に入れているのだけれど…



長い長い上り坂を桜に見守られながら歩いて行く。

私は、今年もまたあの場所に行かないまま春を迎えようとしている。




うっすらと見える月。

星はまだ見えない。





見えないのに掴もうと 必死に手を伸ばす。



「コホン」


犬と散歩中のご婦人に咳払いをされた。

犬はトイプードルで、綺麗にトリミングされている。

無意識に自分の伸びきったボサボサの髪を見つめてしまう。
 
 

―――――惨めだった。



どうせ、あのいかにも金持ちそうなご婦人には私の何もわからない。





どうせ、





どうせ何も…





分からない。





分かってほしくも無い。






知ったかぶる人が私は嫌いだ。
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