Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
「なんだ、知花ちゃん、涼太が好きだったのか! だったら早く言ってくれればよかったのに」
ハッハッハと愉快そうに笑われて「え……」と戸惑っていると、おじさんはテーブルの上の台紙を片づけながら言う。
「俺だって、知花ちゃんが涼太のところに来てくれたらとはずっと思ってたんだよ。でもこいつ、性格はまだしも口がなかなか悪いだろう?
そんな男と付き合わせるのも知花ちゃんが可哀想だと思って遠慮して言わなかっただけで。
それに、こいつが知花ちゃんを想ってるのは態度から知ってたしなぁ」
「……は?」と眉をしかめた涼太に、おじさんがからかうような笑みを向ける。
「おまえは素直じゃないけど、さすがに親の目は誤魔化せないんだよ。きっと、菜穂も気付いてるんじゃないか?」
以前、菜穂に、〝涼太は知花が好き〟みたいなことを言われたことを思い出す。
「でもおまえは、知花ちゃんが好きなくせに子どもみたいな態度ばっかとってたからなぁ。そんなんじゃ上手くはいかないだろうって踏んで、今回話を持ってきたんだが……少し会わないうちに雰囲気が変わったな、涼太」
口の端を上げたおじさんに「いい男になったじゃないか」と言われた涼太は、極めて不愉快そうに顔を歪めると、私の腕を掴んで立ち上がる。
「え、涼太、なに……」
「おまえ、荷物はこれだけか?」
床に置きっぱなしになっていたバッグを持たれ、「そうだけど……」と答えると、涼太はそれを自分で持ったままおじさんを見る。
「俺たち、今日は帰るから。菜穂がそのうち戻ってくるから、そう説明しといて」
「なんだ、涼太、久しぶりに会ったって言うのに」
残念がるおじさんの言葉なんて耳にも留めずに、涼太がずんずん歩き出す。
「ああ、涼太! ふたりの新居は俺がしっかり探しておいてやるからな。同棲して、結婚したあともそのまま住めるようなとびきりの物件を――」
おじさんの言葉を聞き終わる前に、アパートの玄関がしまった。