【完】☆真実の“愛”―君だけを―2
「……俺、仕事の電話をして来てもいいか?」
「んー?どうぞー?」
一応、沙耶の許可を取り、リビングから出た。
ポケットからスマホを取りだし、かけたのは……
『――はい、どうしましたか?』
全ての情報を掴んでいる、沙耶の父親。
「お久しぶりです。健斗さん」
沙耶の尊敬する相手であり、恐れを抱く相手。
絶対的な威圧感を持つ、男。
『なんや、どないしたん?』
俺の口調で、私事だと判断してくれた健斗さんの口調は崩れ、優しい声音になる。
「……沙耶が、きているんですが」
『君んちにか?』
「はい」
『邪魔やったら、追い出してええよ』
……悪魔だ。
楽しそうにそう言った、健斗さん。
やっぱり、変わり者。
『……こわなったんかな』
「はい?」
『沙耶、一人でいるんのがや』
何の話だろうか。
『交代で、様子は見に行かせてるんやが……相馬、沙耶がそっちにいるのなら、話は早い。沙耶の様子を見ていてくれへんか?』
「様子、ですか?」
もう、十分、おかしいのだが。
『最近、人と関わるのを嫌がるんだ。春のことでさえ、忘れてしまうほどに』
忘れる……。
「沙耶は、記憶がごちゃごちゃで。と、笑っていましたが」
『そうか……でも、本当は違うんよ』
健斗さんは、娘よりも妻を大事にする人。
だが、娘の沙耶も勿論、大事にしている。
沙耶のことを救おうと、彼は、努力している。
『解離性障害というものなんや。精神疾患の一つで、自分が自分であるという感覚を失ってしまっている状態のことを指す。記憶が抜け落ちていたり、いつの間にか知らない場所にいるなどといったことが日常的に起こるため、生活に様々な支障が出るんやって。他人との関わりが辛くなっているわけではないと思うんやけど……』
解離性障害。
それは、確か……
『原因は、ストレスだ。重いストレスから、身を守ろうとして……起こるものなんだ』
思った、通りだった。