偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
「ていうか、今日はなんで誘われたんですかね?私」
松島さんと私は社内の飲み会で時々一緒になることはあっても、ふたりきりで飲みにいくような間柄ではなかった。それなのに、突然、彼から誘いがあったのだ。


眼鏡の奥の理知的な瞳を、探るように見てみたが、彼の鉄壁のガードは決して崩れない。

「横綱じゃないと、誘う権利もなかった?」
松島さんはおかしそうに目を細めた。
「そこまで自惚れてないですよ。ただ、松島さんて私みたいな女は圏外でしょ」

恋愛に最も必要なものはマーケティングだと、私は常々思っている。需要のないところでいくら頑張っても無意味だ。需要のあるところへ行かねばならない。

「あっ。もしかして、私が本気で鈴ノ木さん好きだったと思ってるとか?だとしても、なぐさめとかいらないですから」
失恋ぐらいで、ウジウジ泣いたり落ち込んだり、そういうのは美学に反する。そんなヒマがあれば、次の合コンでも企画するのが私という人間だ。

「いや。俺が美香ちゃんとゆっくり飲んでみたかっただけ」
松島さんはにっこりと微笑んだ。が、反対に私は顔を強張らせる。

「……松島さんて、人畜無害に見せかけて、実はそうでもないっていうか」
私は彼の笑顔の意味を考えあぐねた。なんだかとても居心地が悪い。策士は策士が苦手なのだ。

松島さんは学生アルバイト風の店員が持ってきたおかわりのジョッキを私に手渡すと、自分のグラスを近づけた。

「まぁ、とりあえず、今日のところは鈴ノ木夫妻の幸せを願って、もう一度乾杯しよっか」
「か、かんぱーい」
ひきつった笑顔と声で、私はグラスを鳴らした。





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