偽装新婚～イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない～
リビングの空気が重くなる。
せっかくのデートだというのに、いきなりに台無しにしてしまったみたいだ。
うつむいたまま動けない私に、光一さんがゆっくりと歩み寄る。くしゃりと、優しく私の頭を
撫でた。
「悪かったよ。昨日のは言葉選びを間違った。地味じゃなくて、好み！　いつもの華の感じが
俺の好みのタイプなんだよ」
少しぶっきらぼうにそう言うと、光一さんはバツが悪そうに視線をそらした。

これも、彼の得意な、女性を喜ばせるためのリップサービスなのかもしれない。
けど、斜め上に見える光一さんの横顔はほんの少し赤く染まっているような気がした。
『地味』より『好み』と言われる方が数百倍は嬉しい。
さっきまでのみじめな気持ちが一気に吹き飛んだ。自分のあまりの単純さに、私は思わず
笑ってしまった。

「服、選びなおしてやるよ」
光一さんはそう言うと、一緒に私の部屋に入りクローゼットを開けた。
まったく迷う素振りもなく、テキパキと服を選んでいく。
光一さんが取り出したのは、淡いピンクベージュの半袖ニットにオフホワイトのレース
スカート。どちらも私のお気に入りの一着だった。

「華の長所、もういっこ思い出したよ。自分に似合うものをよくわかってて、センスがいい」
光一さんは照れ隠しなのか、やけに真面目な顔をそう言った。
私のほうは照れを隠せず、頬が真っ赤に染まっていく。
「ありがと」
小さな声でそうつぶやくのが精いっぱいだった。



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