偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
光一さんはよく来るみたいだけど、私は図書館なんて学生の時以来だった。
古紙のにおいとシンと静まり返った空気が、懐かしいような落ち着かないような……。
文庫本がびっしりとつまった書棚から数冊を取り出し、先に席に座っているはずの光一さんを
探す。

窓際の一番奥の席で、光一さんは真剣な顔でページをめくっていた。
「なに読んでるの?」
私が声をかけると、光一さんは読んでいた本をもちあげ表紙を見せてくれた。
「……民族紛争と世界経済? せっかくの休日に難しそうなの読むんだね」
「仕事のための勉強。最近、担当の商材が変わったんだ。中近東の情勢にはそれほど詳しく
なかったから、急いで知識を入れないと」
「そっか。大変なんだね」
光一さんの長所……仕事に対する真面目な姿勢。私もひとつ思い出したよ。そう思ったけど、
邪魔しちゃ悪いので口には出さないことにした。
「そっちは?なに読むの?」
私はつい最近映画化の決まったベストセラー作家のミステリー小説を見せた。
「読書好きの人にはミーハーって、バカにされるかも知れないけど」
「なんで? 読書の趣味にいいも悪いもないだろ。それに、その作家は売れてるだけあって
構成力とか抜群だと思うよ」
「ほんと? 実は初めて読むんだよね。楽しみ!」

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