偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
今日のデートは本音で向き合うことが目的だけど、なにからなにまであまりにも
趣味が合わないという結末になってしまうのは悲しすぎるから。
もしかしたら、いい夫婦になれるかもって、ほんの少しくらいは光一さんに思ってほしいから。

__私たち二人がこれからどうなっていくのかは全然わからないけど、自分自身の気持ちは
もう自覚し始めていた。
私は光一さんに振り向いて欲しい。仮面夫婦ではなく、本当の夫婦になりたい。
__私を好きになって欲しい。

光一さんの本性を知って、最低だと思うし騙されたとも思う。けど……今の光一さんのことも嫌いになんてなれなかった。
外見がかっこいいから? 安定した結婚生活を失いたくないから? 今の気持ちも結局は打算なんじゃない? そんなふうに自問自答を繰り返した。
でも、それだけとは思えなかった。その気持ちを今は信じたい。

「ジャネット監督の新作。俺、ファンなんだよね」
光一さんの回答は私を少し落胆させた。人気の映画監督だけど、なんだかラストがすっきり
しない作品が多くて私は正直に言うと苦手だった。けど、それは光一さんには内緒だ。
「ほんと? 私もそれ見たかったんだ。楽しみだね」
とびきりの笑顔で答えたはずなのに、光一さんは眉間にしわを寄せて、私の頬を軽くつねった。
「いたたっ」
「約束は?」
「へ?」
「素のままで、本音を言い合うって約束だったろ?」
なんで嘘だとばれたんだろう……私が返答に困っていると、光一さんはため息まじりに
言葉を続けた。


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