偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
「いま上映中の作品だと、華の好みはあれだろ? CMいっぱい流れてるミュージカルのやつ」
「え? なんでわかるの?」
思わず言ってしまった。しまったと思って、慌てて口をおさえたけど遅かった。
光一さんは苦笑している。その表情は怒っているわけではなさそうだった。
「まだ短い付き合いだけど、華の趣味くらいは把握してるつもりだよ。ジャネット監督は苦手だろ?」
「うっ……苦手ってほどではないんだけど、淡々とした展開が多くて眠くなっちゃうというか、
その……」
ごまかしても無駄と悟った私は、正直に答えることにした。
「だと思った。華が苦手なのはわかってたけど、それでも今日は俺に合わせてって頼んでみたんだよ」
「うん」
「今までなら、最初から華の好みに合うやつを提案してた。けど、俺たちの今後のためにはそれじゃダメなんだろ?」
「うん。……ごめんなさい。ありがとう」
光一さんは私の提案に誠実に取り組もうとしてくれているのだ。
小手先でごまかそうとしていた自分が恥ずかしい。それじゃ、表面しか見ていなかったお付き合い期間からなにも進歩しない。
映画や食の趣味が違ったって、別に問題はない。譲り合ったり、理解しようと努力したり、
解決策はいくらでもあるはずだ。
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