偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
仕事の電話だろうか。でも光一さんの口調からして、上司からではなさそうだ。同僚もしくは後輩?
彼の仕事は夜中だろうが休日だろうが、電話や呼び出しは日常茶飯事だ。特別珍しいことでもない。

そんな風に推測してみたけれど、本当は直感でわかっていた。仕事関係ではなく、きっとプライベートだと。
けど、プライベートとなると私にはさっぱり検討もつかない。改めて、自分が仮にも夫である光一さんのことを何も知らないのだと思い知る。

いつのまにか光一さんの電話は終わっていた。
「華、悪いんだけどちょっと急用ができた。マンションまで一人で帰れるか?」
「う、うん。もちろん大丈夫。まだ遅い時間でもないし」
「ごめん。先に寝てて構わないから」
光一さんはそれだけ言うと、足早に駅に向かって引き返していった。

時刻はまだ夜7時を少し過ぎたところ。週末なこともあり、辺りにはまだまだ人が多い。賑やかな笑い声や楽しそうな笑顔が溢れている。
だからこそ……ひとりぼっちになった寂しさを強く感じてしまった。
「いや、仕事かも知れないし!女の勘なんて、迷信、迷信」
自分を励ますようにそう口に出してみたものの、虚しさは消えなかった。



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