恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。


「雅臣先輩が、心に刻めって言ったんじゃないですか……」


中学生のあの日、放課後の教室で『それじゃあ想いが薄れる。俺は心に刻んでいてほしいんだよ』、そう言って君が詠んだ歌。

私はそれを胸に刻んで、ずっと君に恋してきたのに。


「何も覚えてないなんて……薄情です!」

「え……?」

「かくとだに……」


私は思い出して欲しかったのかもしれない。

雅臣先輩が私に贈った和歌を詠みながら、君の反応を願うように見つめる。


「えやは伊吹の、さしも草……」

「それって……和歌?」



けれど彼は、戸惑いの表情のまま私を見上げるだけ。

あぁ、もう……君の中に私はいないんだ。

嫌というほど彼の顔を見ていれば、それがわかった。


「さしも知らじな……燃ゆる思ひを──……」


歌い終えた私は、全力でその場から逃げ出した。

傘をベンチに置き去りにして、雨に打たれながらひたすらに、ひたすらに前へと足を動かす。

服が濡れようと、泥が跳ね返ろうと、かまわない。今はとにかくここから、彼から逃げ出したい一心だった。

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