恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「あのっ、すみま──」
「お前に聞いた俺がバカだった」
私の謝罪を最後まで聞かずに、勢いよく踵を返した在田先輩。こちらを一度も振り返ることなく、階段を上がっていってしまう。
苛立ちをぶつけるようにして鳴る、大きな足音が階段に響いていた。
「どうして、あんな最低なことを言っちゃったんだろう……」
自分を殴ってやりたくなった。
本当に子供なのは、言いなりになるしかない自分の苛立ちを在田先輩にぶつけた私の方なのに……!
「本当に私、最低だ……っ」
私のか細い呟きは、誰もいない階段に響く。
その余韻も虚しく空気に溶けていく。
胸の内に残るのは、在田先輩に酷いことを言ってしまったことへの後悔だ。
いつまでも親の言うとおりにしないと生きていけない、赤ちゃんみたいな自分が、どれだけ空っぽでワガママな人間なのかを思い知る。
「……うぅっ……」
惨めな自分がさらに惨めになるから。泣きたくなんてないのに……。
それでも、一度こぼれた涙は止まらない。
──あぁ、雅臣先輩に会いたい。
今たまらなく、君に会いたくなった。
陽だまりのようなあの人のそばにいれば、この悲しい気持ちも全部、溶けて消えてくれると思った。
そう思ったら、私は助けを求めるように歩き出していた。
現実から逃げるようにして、目の前の階段を降りていく。
会える確証はなかった。
けど、私は救われたかった。
無条件に私を受け入れてくれたあの人に、会いたかったんだ。