恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
雅臣先輩の存在に心癒されながらも、頭を過ぎるのは在田先輩の怒った顔だった。
私がこうしてホッとしている間、彼は私の放った言葉に傷ついているはず。
そう思うと胸が強く締め付けられて、罪悪感に押し潰されそうになった。
「…………」
人は安心すると、同時に嫌なことも考える。
在田先輩に酷い事を言ってしまったことが、頭の中をぐるぐると巡っているのだ。
私は机に頬杖をつくと、ただ無言でぼんやりと窓の外を見た。
部室の窓からは、大きくて太い桜の木が一本見える。
入学前よりあきらかに、花びらの降る量が減った。
もうじき、新芽が顔を出すんだろう。
この季節が何度か巡れば、私は……。
大学に行き、医者になり、お母さんの職場で働く。
決められたレールの上を進まなくちゃいけない。
今だけだ、外れたレールを歩いていられるのは。
私が初めて両親に逆らって、この高校にやってきた来た今が、私に与えられた最後の自由だと思った。
今すごく、生きていることが苦しい──……。
「……清奈、なんかあったか?」
「……え?」
目の前の雅臣先輩が、ふいに尋ねてきた。
私は窓の外の景色から、雅臣先輩へと視線を移す。
彼は食事を終えたのか、売店でもらったのだろうおしぼりで手を拭きながら、私をじっと見つめている。