恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「それで、清奈のしたいことはなんだ」
「あ、それは……うーん、今は在田先輩に謝りたい……ですかね」
自分の苛立ちをぶつけるように、傷つけてしまったから。
目先にある“したいこと”というのは、それ以外に思いつかなかった。
こういう事でいいのかな、と答えを求めるように雅臣先輩を見れば、笑顔で頷いてくれる。
そして、その笑みを意味深に深めると──。
「なら、放課後にまたここへ来るといい」
そう言って、パックのカフェオレを音も立てずに吸った。
うん、なんでだろう……。
パックを掴む長い指先が綺麗に揃っていること、傾けてストローを口に咥えるまでの動作がゆっくりで、音を立てないあたりが上品であること。
そのせいか、売店の145円の紙パックのカフェオレなのに、雅臣先輩が飲むと都会の洒落たカフェにいるような錯覚に陥る。
それもこれも、彼の落ち着いた大人の雰囲気のせいなんだろうなと思った。
その所作に見とれつつ、私は先ほどの返答をする。
「どのみち部活ですし、行きますよ」
「会いたい人に会えるぞ」
……なにそれ、予言?
目を丸くしながら雅臣先輩を見れば、その顔は自信に満ち溢れている。
やっぱり先輩は不思議な人だなと思いながら、私は密かにため息をつくのだった。
***
案の定、教室に戻ってからは大変だった。
理由はもちろん、在田先輩のことだ。
告白か、単に目をつけられて呼び出しをくらっただけなのか、質問攻めに合いながら私は胸が重苦しくなっていくのを感じていた。
傷つけてしまった相手の話題には、出来れば触れたくないものだ。
これ以上詮索されるのも不快だった私は「落とし物を届けてもらった」の一点張りで通し、その場をなんとか切り抜けることに成功した。