恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「俺がいる間に業吉と清奈がなりたい自分を見つけられるように、面倒見るから安心しろ」
雅臣先輩の言葉と、優しい眼差しに既視感を覚えた私は思考を巡らせる。
似たような言葉をどこかで聞いたな……どこだっけ。
思い出すのは中学に入学して1ヶ月が経った頃、居場所を探して彷徨っていたあの日。
初めて古典研究部の扉を開き、雅臣先輩と出会ったあの時に言われた──。
『それに、俺が卒業するまでに、古典の魅力をこれでもかってほど伝えるつもりだから、安心しろ』
この言葉だった。表面だけで見れば、ただ和歌を教えてくれるって約束にしか聞こえないだろう。
けれど、雅臣先輩がくれたのは居場所だ。
和歌に興味もないのに、ここにいていいのか。そう不安に思っていた私に、ここにいるための理由を作ってくれたのだ。
私の中に生まれた既視感は、あの言葉に似ていたからだったんだ。
「……っはい、世話になります」
業吉先輩は声を震わせながら、勢いよく頭を下げた。
きっと、泣いてるんだ。
駄目な自分を受け入れてもらえる場所、それが未来の見えない私たちには必要だったのかもしれない。