恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「物部さんって見かけによらず、スケベなんだね」
「むっつり物部じゃん」
「ぎゃははっ、なにそれウケルんですけど!」
耳を塞ぎたくなるような、女子たちの笑いが階段に響く。
その中で物部さんは、縮こまるようにして俯いていた。
なにも、言い返さないんだな……。
彼女の姿を見つめながら、胸が幾千の糸でキュッと締め付けられる感覚。
今までの私なら無視していたかもしれない、面倒だから関わりたくないって。
だけど、考えてしまったのだ。小説のことをからかわれて、あのクラスに居場所を失くしたら……。
物部さんはこれから、どんな気持ちで1年間、あの教室で生活するんだろうって。
きっと、世界がみんな敵になってしまったみたいに、苦しいだろうなって。
私が苦しかった時、雅臣先輩は居場所をくれた。あの時の心が軽くなるような救われた瞬間は、今でも忘れられない。
だからこそ、私も誰かにとっての居場所になりたいと思う。
それに──何もない私からしたら、物書きの物部さんは誰よりも輝いていて、手の届かない偉人のようだ。