恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「……羨ましいな、これだけはって夢中になれるモノがあって」
ぽつりと零れた本音に、物部さんは「え?」と弾かれたように顔を上げて私を見つめた。
その驚愕を映したような瞳に、私は苦笑いして肩をすくめる。
「私には、本気でなりたいモノってないから……高校生のうちから、夢に向かって突き進んでる物部さんはカッコいいと思う」
私もいつか見つけられるのかな……ううん、見つけられたらいいな。
自分がまだ何者にもなれていない不安はあるけれど、あの人──雅臣先輩のそばにいたら、なりたい私になれる気がするのだ。
だから今は、まだ明確に夢というモノを見つけられてはいないけれど、興味を惹かれたものはとことんやっていこう。
「はい、これ」
私は物部さんの目の前まで歩いていくと、スッとスマホを差し出した。
今までの私なら、こんなに清々しい気持ちで自分の弱さを認める事はできなかったと思う。
自分と他人を比べてばかりで、私には何もないって落ち込んでいただろう。
でも彼女の夢に向かう姿勢に背中を押されたのか、自然と微笑む事が出来た。
「あっ……」
物部さんはスマホを受け取ると、眉尻を下げて言葉を詰まらせる。
言葉を待ってみたけれど、やっぱりその先は紡がれない。
それを残念に思いながら、ぎこちなく笑う。
「お話、出来たら読ませてね」
「っ、あ……!」
その瞬間、物部さんは驚いたように目を瞬かせる。少ししてスマホを抱きしめたまま、何かに耐えるように固く瞼を閉じてしまった。
なんて、図々しかったかな。
というか、首を突っ込むような形でここにいるけれど、余計に仲をこじらせてしまってたら申し訳ない。
私はいたたまれなくなって「じゃあ」とそれだけ言うと、物部さんと女子たちを置いて部室へ向かうのだった。