恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「呼び出しか……女子は怖いな」
雅臣先輩は昨日と同じく焼きそばパンを食べながら、苦笑いで言った。
私は加えていたカフェオレのストローを口から外すと、大きく頷く。
「本当ですよね、同じ性別とは思いたくない陰険さですよ」
「そういう清奈は、男らしいよな」
横槍を入れたのは業吉先輩だった。
彼はカップ麺を啜り、箸の先を私に向けてニヤッと笑っている。
「在田先輩、どういう意味ですか……」
「勇ましい女ってこと、つまり褒め言葉」
「どこが!?」
あの後、部室にやってきた私は購買で買ったおにぎりを食べながら、雅臣先輩と業吉先輩に先程のことを話していた。
業吉先輩がいたのは驚きだったけれど、みんなと一緒にいられるのは嬉しい。
たぶん業吉先輩もそんな気持ちで、自然とここに足を運んだんじゃないだろうか。
部室にある長机の向かいの席に座る先輩たちを見て、これからもこうして、みんなでご飯を食べられたらいいなと思った。
「まぁ清奈の話はさておき、俺もこの見た目のせいでクラスで浮いているからな。よく男子には、目ぇつけられるぞ」
見た目のせいで浮いてる、かぁ。
業吉先輩、見た目ヤンキーだって自覚あったんだ。
私はたぶん、みんなからしたら何を考えてるのかわからない人間に映るんだろう。
話さないわけじゃないけれど、積極的に会話するわけでもないし、扱いにくいなぁと思っているのかもしれない。
そして物部さんは見た目の暗さも手伝って、完全にイケているグループの女の子たちから標的にされている。
なんで学校という社会は、弱者を見つけなければ気が済まないカースト制なんだろうか。つくづく嫌になる。
「業吉先輩は、黒髪に直さないんですか?」
先輩の場合、8割型見た目で損していると思う。
地味すぎても目立ちすぎても、クラスのキング的な存在には嫌われるのだ。
キングにとっての標的の条件は自分を霞ませる害のある存在か、本当の最下層の人間であるかということ。
ようは、そのどちらにも当てはまらなければいい。
地味すぎず、飾らなすぎず。印象を少しでも変える努力をすればモブにはなれる。
とはいえ、教室で権力を持ちすぎるのも面倒だ。
芸能人のように言動も行動も注意しなければ、すぐにハブられる危険が高まる。
なので容姿も整っている、気が強い、もしくはリーダー格の女の子に気に入られている。
そんな人間の集まった、いわゆるイケているグループの人たちはある意味勇者だと思う。
「いいんだよ、これは俺が変わりたくてなった姿だし、なりたい自分になれるまではこのままでいる」
「業吉先輩……」
私が初めて親に意見して、この高校に来たように。
業吉先輩にとって髪を金色に染めるということは、自分でなにかしたいと思えた、大事な決断のひとつなのかもしれない。
私たちはなりたいモノになるために、こういう小さな意思も見逃しちゃいけないのだと思う。
変わりたいという気持ちを、見失ってしまわないように。