恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「めぐり逢い、て……見しや?」
「それとも──って、なにこの呪文」
……え?
物部さんの小説を朗読していたクラスメートの口から、耳慣れた言葉が放たれ体が固まる。
全身に流れる血液がボコボコと沸騰するような、気分の高揚感を感じた。
これは……百人一首57番、紫式部の詠んだ和歌だ!
雅臣先輩の影響ですっかり和歌オタクになった私は、クラスメートがどんなに下手な詠み方をしようとわかる。
和歌自体の輝きが強いから、存在感は失われないのだ!
それにしても許されないのは、日本人に生まれながら、和歌をバカにする事だ。
呪文じゃなくて和歌だし、何度も言うが絶対に許せない。
私は居ても立っても居られず、ガタンッと音を立ててその場に立ち上がる。
数人のクラスメートは何事かと振り返っているが、文句を言いたい女子2名はまだ気づいていない。
私は大きく息を吸って、吐くと同時に歌う。
「めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に
雲がくれにし 夜半の月かな」
すると、クラスメートの視線が完全に私に集まった。
スマホを手に笑っていた女子達も口を半開きにして、マヌケ面で固まっている。