恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「物部さんの小説、紫式部が出てくるの?」
クラスメートの視線は無視をして、私はウズウズしながら隣の席に座る物部さんに尋ねる。
彼女はパッと表情を輝かせて、大きな身振り手振りでアワアワと口を開く。
「う、うん……! 平安時代の宮廷が舞台なんだ!」
「へぇ~、あ! だから今朝、和歌の事を聞いてきたんだね」
朝、私が和歌を口ずさんだ時に、珍しく物部さんが食い気味に話しかけてきたのを思い出す。
なんだ、もっと早く彼女と話していたらよかった。
そうしたら、絶対に友達になれたのに。
「でも、その和歌の解釈がいまいちわからなくて……」
物部さんも好きな小説の事を話しているせいか、クラスメートの好奇な視線に気づいていない。
真剣な表情で、熱心な眼差しで私に語りかけてくる。
「ちなみに、物部さんはどう解釈したの?」
「本によっては片思いの和歌だとか、友情の和歌だとか……結局どっちの意味があるのかなって」
あぁ、それは私もつまづいたところなんだよね。
わかるわかると頷いていると、ふいに周りの静けさが気になった。
教室に視線を向けると、まるで変人を観察するかのように、クラスメートたちがこちらを見ている。
……この人たちの存在を忘れてた。
今まで教室でも俯いてばかりいた物部さんと、話さない訳じゃないけれど、静かな生徒の部類に入る私が急に饒舌になったのだ。
みんなが興味深そうに、凝視したくなる気持ちもわかる。
でも、こんなにギャラリーがいると話しにくいな。
私は苦笑いで、物部さんに視線を戻した。