恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「あの、物部さん。よかったら、うちの部活来ない?」
「え?」
「ここだと落ち着いて話せないんだよね」
すると、物部さんも興奮して忘れていたのか、周りの冷めた視線を感じたのか「確かに」と頷いてくれた。
私たちは居心地の悪い視線に見送られて、教室を出る。
「小泉さん、よければ意味も教えて欲しいんだけどいいかな? 自分で調べただけだと、正確なのか心配で」
「もちろん、いいよ」
廊下を歩きながら、部室に着くのも待てずに私達は和歌について話す。
「えっとね、あの和歌の現代語訳は──せっかく久しぶりに逢えたのに、それがあなただとわかるかどうかのわずかな間に、慌しく帰ってしまった」
物部さんは私の説明に「うんうん」と何度も相槌を打って、スマホのメモアプリに打ち込んでいた。
彼女の打つペースを見ながら、続きの訳を伝える。
「それがまるで、雲間にさっと隠れてしまう夜中の月のようだ。これはね、友への寂しさを詠った和歌なんだよ」
「友情説が強いんだ!」
やっぱり! と興奮したように、頬を上気させる物部さん。
自分の好きなモノを楽しげに聞いてもらえるって、幸せなことなんだな。
こう、胸いっぱいに温もりが広がっていくみたいで、昔に雅臣先輩が私に和歌を好きにならせてみせると、生き生き言った気持ちが理解できる気がした。