恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「うん、紫式部の父親が仕事で越前──今の福井県に行くことになるんだけどね」
「越前、聞いたことはあったけど、福井県の事だったんだ」
私の話を真剣に聞いてくれる彼女に嬉しくなった私は、調子に乗ってたくさん話をした。
「紫式部もそれについて行って、都を離れたの。でも都に友達がいたから、紫式部は携帯もない平安時代で寂しい思いをしていたんじゃないかな」
紫式部の気持ちは、今の私ならわかる。
自分を知らない人のいる場所へ行くというのは、不安もあるけれど何より寂しい。
中学生の時、雅臣先輩が卒業していなくなってしまった時、私は置いてかれる側だったけれど心にぽっかり穴が空いてしまったようだったから。
「この歌には、そういう背景があったんだ……」
感心している物部さんに、私は我に返る。
私、熱く語りすぎじゃない?
好きな和歌の話だったから、つい……。
マシンガントークで自己満足のように和歌の話をしてしまった事が、今さらになって恥ずかしくなってきた。
「ごめんね、偉そうに語って」
火照る顔を両手でパタパタ仰ぎながら謝る。
さすがの物部さんも引いただろうか。
不安になっていると彼女は私の不安を消し去るように、穏やかな表情で首を横に振る。
「ううん、むしろ話が聞けて嬉しいよ」
物部さんはそう言って、道ばたに咲く野花のように可憐な笑顔を見せる。
それを見ていたら、つられるようにして私も笑う事ができた。