イジワル部長と仮りそめ恋人契約
空木さんははーっと深くため息を吐くと、つまらなさそうな表情で頬杖をついた。



「あんたさ、今まで彼氏いたことないだろ」

「え、なぜそれを」



深く考えず素直に肯定すれば、私を見る空木さんはどことなく渋い顔。



「やっぱりな……そりゃあ、あんな謎に威圧感バシバシなおっかない人がバックについてるって知ったら、どこぞの馬の骨も悪い虫も寄りつかねぇよ」



あ、空木さんもお兄ちゃんのことおっかないとは思ってたんだ。普通に会話してたから、あの強面をものともしないレアキャラ認定してたのに。

190cmの高身長に、広い肩幅。顔立ちは整っているとはいえ笑顔が極端に少ないせいか普通の状態でも機嫌が悪いと誤解されがちな千楓お兄ちゃんは、その恵まれた体格と有り余る威圧感から周囲に与えるイメージを裏切らず、学生時代県大会を制した空手の有段者だったりする。あ、あと昔水泳の大会でも賞獲ってたっけ。

またひとつ大きく息を吐いた空木さんが、テーブルに置いてある名刺を人差し指でコツコツと叩く。



「いやでも、非常にはた迷惑な形とはいえミスミ電機の課長と繋がりができたのは棚ぼただったな。その点はまあ、少しばかり感謝してやってもいい」

「あ、ありがとうございます……?」



貶されてるんだか褒められてるんだかよくわからないけれど、とりあえずへらりと笑ってお礼を言ってみた。

そんな私に空木さん、涼やかな目元を細めものすごい呆れ顔を披露してくださいました。



「そんなのんきな顔してる場合か? あんたどうする気だよ、この状況」

「いやー……どうしましょうね」



乾いた笑みを浮かべれば、目を閉じてうつむいた彼は頭が痛いとばかりに眉間を揉む。

その綺麗だけれど節ばった指先はイラついたように、一定のテンポで硬いテーブルを叩いていた。

一応、私と空木さんは今日が初対面。なのに今こうして隣り合って同じ問題に頭を悩ませているなんて、不思議だなあと思う。

……いや、不思議がっている場合じゃない。これは一之瀬家の──私の、問題なのだ。
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