イジワル部長と仮りそめ恋人契約
「よし。今回も、服装は合格だな」

「……それはよかったです」



ほら、やっぱりね。なんでこういちいち上から目線なのでしょうかこの人は……。

でもまあ、男女間におけるデートの知識に乏しい私には助言は非常に有難かったり。そんなこと、悠悟さん本人には絶対言ってあげないけど!



「悠悟さん、タバコ吸うんですね」

「ん? あー、少しな。1日にそう何本も吸わねぇけど、仕事の途中の息抜きとか」



彼の言葉に、思い出す。そういえば悠悟さん、今日は土曜日だけど私との約束の前に会社行くって言ってたな。

さすが豊臣商事の営業主任さん、休日出勤だなんて忙しそう。

私は急に、申し訳なくなってしまう。



「……悠悟さん、疲れてますよね。わざわざ来てもらっちゃって、ごめんなさい」



さっきのタバコだって、疲れてるからこそだったのかも。

しょんぼり肩を落とし、悠悟さんを見上げた。

そんな私の謝罪を、彼の笑い声が一蹴する。



「ははっ、なんで謝ってんの。志桜さん、周りに気を遣いすぎじゃないですか?」



おどけた調子でそう言ったかと思えば、わざわざ助手席のドアを開けて。恭しく右手を胸にあてて上半身を折り、車内を左の手のひらで示す。



「どうぞ、お嬢様」



突然の”女の子扱い“に、また胸がときめいてしまった。私を誘導する悠悟さんの所作は優雅だけど、その表情はイタズラっぽく笑っている。

だから私も、ついふっと頬を緩めた。



「ありがとうございます。悠悟さんがそんなふうに言うと、なんか変な感じ」

「失礼な。こんな紳士つかまえといて」

「だっていっつも、意地悪ばっかり言うじゃないですか」



自らも運転席に乗り込んでシートベルトをしながら心外とばかりに彼が言うから、負けじと私もくちびるを尖らせる。

「ハイハイ」と生返事をした悠悟さんは、ダッシュボードから何やら細長いケースを取り出した。

さらにその中から現れたのは、銀色のフレームのメガネ。私は思わず目をまたたかせる。



「悠悟さん、目が悪いんですか?」

「まあそこそこ。普段は裸眼だけど、運転するときだけはメガネかけるんだ」

「へー……」
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