イジワル部長と仮りそめ恋人契約
それから、しばらく経って。



「はあ、まだ口の中が幸せでいっぱいです……」

「ふ。なんだよそれ」



ロビーで下りのエレベーターを待ちながら両頬に手をあてる私に、悠悟さんが小さく笑った。

だってめちゃくちゃおいしかったんだもん、さっきのフルコース。前菜は味はもちろん白いお皿に映えるカラフルな色合いが見た目にも楽しくて、メインのシェフおすすめポワレと和牛のローストビーフはもうずっと口の中に留めておきたいほど旨味の塊かな??って感じで、デザートのアイスクリーム三種盛りだってサッパリなのに濃厚なおいしさで。

語彙力。あのおいしさを的確に表現する語彙力が欲しい。

そしてここの食事代も、デザートの後私が化粧直しに立った隙にいつの間にやら悠悟さんが済ませてくれていました。ほんと、どこまでスマートにこなすのこの人……。


下りエレベーターが到着し、乗り込む。

エレベーター内は、私と悠悟さんのふたりきりだった。

えーっとたしか、車を停めたのは地下2階だったよね。私が【B2F】のボタンを押すと、壁に寄りかかった彼が何気ない様子でポツリ。



「ほんとの記念日デートの鉄板なら、この後は上の階にあるちょっとイイ客室に泊まって濃密な夜を過ごすところだけど」

「えっ、」



思いがけない発言が飛んできて、ついぐりんと勢いよく振り返った。

『しまった』と後悔しても時すでに遅し。明らかに動揺する私の様子を見て、悠悟さんが可笑しそうにニヤニヤ笑っている。



「ま、それは勘弁してやるというか、『勘弁してください』?」

「そっ、それはこっちのセリフです……!」



負けじと言い返したところで、きっと今の私の顔は赤くなっているだろうから意味なんてないのだろう。

地下2階に到着したエレベーターが開くなり、逃げるようにその空間から抜け出した。

そんな私のあとを、のんびり歩きながら悠悟さんが追いかけてくる。
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