イジワル部長と仮りそめ恋人契約
考えてみれば、車のキーは彼が持っているわけだから私ひとりが早く戻ったって意味がないのだ。

あーもう、恥ずかしい私。なんだか、子どもみたいなところばかり見せちゃってる気がする。



「悪い悪い。ちょっとからかいすぎた」



悠悟さんの車の傍らでうつむく私に何か思ったのか、そう言って彼がポンと頭を軽く叩いた。

驚いて、顔を上げる。目が合った悠悟さんが、私の顔を覗き込むようにして軽く首をかしげた。



「志桜って、結構イイトコのお嬢さんだったりする?」

「え? いえ別に、そんなことないですけど……」

「ふーん。そうか」



私の頭から手を離し、彼は興味があるのかないのかよくわからない返事をする。

リモコンを操作して車のロックを解除するその背中に、不思議に思って問いかけた。



「あの、どうしてそんなことを?」

「今までも思うことあったし、あとはさっきのレストランも。食べ方とか何気ない所作が、綺麗だなって思ったから」



あとはお見合い云々もだな、なんて軽く悠悟さんは続けたけれど、そのセリフはちゃんと頭に入って来なかった。

……綺麗、だって。あの、かっこいいけど意地悪でヒトのことからかってばかりな悠悟さんに、褒められてしまった。

じんわり体温が上がった気がして、頬を両手で包む。やはりそこは、いつも以上に熱くなっていた。



「……志桜?」



名前を呼ばれてハッとする。運転席側のドアを開いたままきょとんと私を見る悠悟さんに気づき、慌てて助手席へと乗り込んだ。
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