イジワル部長と仮りそめ恋人契約
通りかかった仲野さんに紙袋を預け、「じゃあ行くか」とお兄ちゃんが歩き出した。

その少し後ろを、私と悠悟さんが並んでついていく。

……そういえば私たち、おじいちゃんの説得にあたって綿密な打ち合わせとか特にしていないけど、いいんだろうか。

けれどもなんとなく、悠悟さんに任せておけばすべて大丈夫な気になるから不思議だ。

いや、前みたいな任せっぱなしじゃなくて私だってがんばるけど! だけど悲しいかな、下手に私が口を出すよりも悠悟さんひとりが話した方がうまくいくような予感もするあたり、複雑な気持ち。

左隣を歩く悠悟さんは、ただ黙っている。完全無欠に見える彼も、さすがに緊張しているのかもしれない。



「……大丈夫ですか?」



前にいるお兄ちゃんには聞こえないよう、こそっと小声で訊いてみる。

見上げる私に、悠悟さんは見る者を虜にするふんわりした笑みを返した。



「大丈夫」



……これは、すでに演技モードに入っているとみていいのだろうか。

だってなんだか、彼がいつもと雰囲気が違うように思えるのだ。その微笑みに見とれているうち、あっという間に私たちはおじいちゃんの自室である和室の前へとたどり着いた。

い、いよいよ、直接対決のときだ。



「千楓です。じーさん、志桜と空木くんが来たぞ」



背後に控える私たちの心の準備なんて、お構いなし。一度正座をしたお兄ちゃんは、部屋の中にそう声をかけた。

私と悠悟さんも、襖が開く前に急いで正座をする。
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