イジワル部長と仮りそめ恋人契約
「……ふん。入れ」
中から飛んで来たのは不機嫌丸出しの少ししゃがれた声。間違いなくおじいちゃんだ。
その返事を受けて、お兄ちゃんがすらりと襖を滑らせた。
もう、ここまで来たら腹を括るしかない。無駄に大きいお兄ちゃんの背中に隠れてまだおじいちゃんの姿は見えないけど、小さく息を吐いて覚悟を決める。
「座布団くらい用意しといてやれよ、じーさん」
呆れたように言ったお兄ちゃんが遠慮なく室内に足を踏み入れ、左隅に積んであった紫色の座布団を3枚取った。
1枚は、襖のすぐ近く。残りの2枚は、そこよりも奥まったところで横に並べて置く。
私と、それから完璧な動作で襖を閉めた悠悟さんは、「ふたりとも座れ」というお兄ちゃんの言葉にうなずいて2枚並んだ方の座布団に腰を下ろした。
顔を上げると、部屋の中央にある文机を挟んでしかめっ面のおじいちゃんは座っていた。
ピンと背筋を伸ばしグレーの着流しの袖に手を突っ込んでいるその姿は、最後にこの本家を訪れた3ヶ月ほど前と何ら変わらないように見える。
……とはいえ、明らかにおもしろくなさそうな表情だ。あんまり悠悟さんに、失礼な態度取らなきゃいいんだけど……。
「あんたが、志桜と付き合ってるとかいう空木か」
顎を上げてぞんざいに言い放つおじいちゃんに深々と礼をし、にっこり笑顔の悠悟さんが答える。
「はじめまして。空木悠悟と申します」
「ふん。どうせ志桜が世間知らずの箱入り娘だとわかってて、だまくらかしているんだろう」
「ちょっと、おじいちゃん!」
ああもう、初っぱなからなんて失礼なことを! 私は慌てて会話に割り込む。
「私、騙されたりなんかしてない! 私が付き合ってるかっ、彼氏のこと、そんなふうに悪く言わないでよ!」
慣れない単語を使ったせいで、ちょっぴりどもってしまった。
それでも普段大人しくしている私の剣幕に、一瞬おじいちゃんは怯んだらしい。束の間衝撃を受けたような顔をしていたけれど、なんとか持ち直したらしくひとつ咳払いをする。
中から飛んで来たのは不機嫌丸出しの少ししゃがれた声。間違いなくおじいちゃんだ。
その返事を受けて、お兄ちゃんがすらりと襖を滑らせた。
もう、ここまで来たら腹を括るしかない。無駄に大きいお兄ちゃんの背中に隠れてまだおじいちゃんの姿は見えないけど、小さく息を吐いて覚悟を決める。
「座布団くらい用意しといてやれよ、じーさん」
呆れたように言ったお兄ちゃんが遠慮なく室内に足を踏み入れ、左隅に積んであった紫色の座布団を3枚取った。
1枚は、襖のすぐ近く。残りの2枚は、そこよりも奥まったところで横に並べて置く。
私と、それから完璧な動作で襖を閉めた悠悟さんは、「ふたりとも座れ」というお兄ちゃんの言葉にうなずいて2枚並んだ方の座布団に腰を下ろした。
顔を上げると、部屋の中央にある文机を挟んでしかめっ面のおじいちゃんは座っていた。
ピンと背筋を伸ばしグレーの着流しの袖に手を突っ込んでいるその姿は、最後にこの本家を訪れた3ヶ月ほど前と何ら変わらないように見える。
……とはいえ、明らかにおもしろくなさそうな表情だ。あんまり悠悟さんに、失礼な態度取らなきゃいいんだけど……。
「あんたが、志桜と付き合ってるとかいう空木か」
顎を上げてぞんざいに言い放つおじいちゃんに深々と礼をし、にっこり笑顔の悠悟さんが答える。
「はじめまして。空木悠悟と申します」
「ふん。どうせ志桜が世間知らずの箱入り娘だとわかってて、だまくらかしているんだろう」
「ちょっと、おじいちゃん!」
ああもう、初っぱなからなんて失礼なことを! 私は慌てて会話に割り込む。
「私、騙されたりなんかしてない! 私が付き合ってるかっ、彼氏のこと、そんなふうに悪く言わないでよ!」
慣れない単語を使ったせいで、ちょっぴりどもってしまった。
それでも普段大人しくしている私の剣幕に、一瞬おじいちゃんは怯んだらしい。束の間衝撃を受けたような顔をしていたけれど、なんとか持ち直したらしくひとつ咳払いをする。