イジワル部長と仮りそめ恋人契約
「そうは言ってもな。じいちゃんが見込んだ石山さんとこの次男坊は、千楓の高校の部活の後輩で頼りがいもあるし、公務員だから収入も安定しとる。いろんな意味で、今後志桜のことをきっちり守ってくれるはずだ。だから志桜も、そこにいる優男より石山の倅と一緒になった方がきっと幸せに……」

「わ、私の幸せは、自分で決めます。おじいちゃんに、決めてもらいたくないよ」



膝の上に置いたこぶしを、ぎゅっと力強く握る。さらなる私の反論に、おじいちゃんはぽかんとした顔をしていた。

最初におじいちゃんからお見合いの話を持ち出されたとき、私は動揺しっぱなしでろくに反抗もできなくて。

だけど、今日は違う。私は、ひとりじゃない。


ちら、と左隣へ視線を向ける。悠悟さんは、私のことを真剣な表情でじっと見つめていた。

その眼差しが、勇気をくれる。コーヒースタンドでお兄ちゃんとの対面を切り抜けることができたのは、100パーセント悠悟さんのおかげだ。

今度は、私ががんばりたい。きっと今が、がんばり時だ。



「ずっと、おじいちゃんたちに甘えてなんでも言う通りにしてきた。だけどもう私はいい大人で……ちゃんと、自分のことを自分で決められるような人になりたい」



すうっと、思いきり息を吸う。

偽物の恋人だけど。期間限定の関係だったけど。

でも、私のこの気持ちは、本物だ。



「私は、ここにいる悠悟さんのことがすきなの……っだから、お見合いはしません」



正面にいるおじいちゃんとまっすぐに視線を合わせ、私は言いきった。

うるさく心臓が早鐘を打っているけれど、嫌なドキドキじゃない。自分の意見を言うことができた充足感で、気分が高揚しているせいだ。

おじいちゃんは黙っている。そしてその口が何かを言おうと開く直前に、隣の悠悟さんが動いた。
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