イジワル部長と仮りそめ恋人契約
こわくないわけじゃない。

でも、だからって逃げるのは嫌だ。私は彼としっかり視線を合わせる。



「……すきです、悠悟さん」



そのひとことで、彼が息を飲んだ。



「偽物の恋人契約だったけど、一緒にいるうちに悠悟さんのわかりにくい優しさとか、ちょっと意地悪なところにもドキドキして……『すきになるな』って釘を刺されてたのに、私、あなたのことをすきになってしまったんです」



今度こそ、伝わりますように。返事をもらえますように。

ほとんど懇願にも似た想いを込めて、ただひたすらその瞳を見つめた。


無言のまま彼が私から顔をずらす。少し角度が変わったことでメガネに蛍光灯の明かりが反射し、表情が読みにくい。

そのうちふっとひとつ息を吐き、小さく「わかった」とつぶやいたのが聞こえた。



「ッ、悠悟さん──」

「わかったから。もうこれで、終わりにしてくれ」



え、と声を漏らすより早く、悠悟さんが近づいてきて私との距離を詰める。

そしてまるで荷物でも扱うように、私の腰に腕を回して肩へと担いだ。

驚きすぎて、悲鳴すら上がらない。彼はそのままUターンすると、無造作に私をベッドの上へと落とした。



「ひゃっ」



スプリングで背中が弾み、今度こそ小さな悲鳴を上げる。

仰向けの私に覆い被さるように、悠悟さんが馬乗りになってきた。



「ゆ……」

「特別に、偽恋人契約、最後のサービス。……そんなに俺がすきって言うなら、今ここで抱いてやるよ」



ネクタイを緩めながらそう言って歪に笑った彼を、呆然と見つめる。

両手首を易々と片手で掴まれ、頭上で一纏めに押さえつけられた。

空いた彼の右手が、私のブラウスの首もとにある黒いリボンをいとも簡単にほどく。
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