・キミ以外欲しくない

話を聞きながら、大きく首を縦に振る私を見て噴き出した副社長は「そんな深く頷かなくてもいいだろ、酷いな」と声を上げて笑った。


初めて見た。
副社長って、こんな顔をして笑う人だったのか。

顔を合わせる機会も無かったし、話すことなど皆無だったから何も知らなくて。
勝手に、冷たくて怖い人なんだってイメージを持っていたから、意外に感じてしまった。


目を細め、垂れ目になってしまっている笑顔が絶妙にタイプだ。
近寄りがたかったイメージが一気に崩れ、何故かとても身近に感じる。


初めて見た副社長の子供みたいな笑顔に、どうやら私は堕ちてしまったようだ。
不覚にもキュンとした自分に気付いてしまったから、認めざるを得ない。


「君だけには言っておこうかな」

「はい?」


さっきまで子供の様に笑っていた副社長は、急に真顔に戻った。


「俺はオヤジを見返したいと思ってるんだ」

「社長を、ですか?」

「あぁ。オヤジはいつまでも俺を子供扱いしてる。未だに大きな仕事は、俺に任せようとしない。俺はオヤジに信用されていないってことだ」

「そんなこと……」

「だから、今回の仕事を成功させて一泡吹かせたいんだ。俺だって、やればできることを証明して、大きな顔をしてオヤジの後を継ぎたいからね」
< 26 / 61 >

この作品をシェア

pagetop