・キミ以外欲しくない
話を聞きながら、大きく首を縦に振る私を見て噴き出した副社長は「そんな深く頷かなくてもいいだろ、酷いな」と声を上げて笑った。
初めて見た。
副社長って、こんな顔をして笑う人だったのか。
顔を合わせる機会も無かったし、話すことなど皆無だったから何も知らなくて。
勝手に、冷たくて怖い人なんだってイメージを持っていたから、意外に感じてしまった。
目を細め、垂れ目になってしまっている笑顔が絶妙にタイプだ。
近寄りがたかったイメージが一気に崩れ、何故かとても身近に感じる。
初めて見た副社長の子供みたいな笑顔に、どうやら私は堕ちてしまったようだ。
不覚にもキュンとした自分に気付いてしまったから、認めざるを得ない。
「君だけには言っておこうかな」
「はい?」
さっきまで子供の様に笑っていた副社長は、急に真顔に戻った。
「俺はオヤジを見返したいと思ってるんだ」
「社長を、ですか?」
「あぁ。オヤジはいつまでも俺を子供扱いしてる。未だに大きな仕事は、俺に任せようとしない。俺はオヤジに信用されていないってことだ」
「そんなこと……」
「だから、今回の仕事を成功させて一泡吹かせたいんだ。俺だって、やればできることを証明して、大きな顔をしてオヤジの後を継ぎたいからね」