・キミ以外欲しくない
「なっ、放してください」
「そうやって逃げるんじゃない。だから君は……」
ジタバタと逃げようとする私に何か言いかけた副社長は、言葉途中で話すのを止め。
同時に顔を挟んでいた手を離された。
「とにかく、期間限定で君はこの部屋で過ごすんだ。俺と一緒に寝食を共にすることが嫌なら、君の部屋に俺が暫く住んでもいい」
片手を差し出され「アパートの鍵を貸せ」という副社長に向かい、首を振る。
冗談じゃない、急に身の回りの物を取りに寄っただけの部屋だ。
グチャグチャになっている部屋を貸すなんて、見せるなんて無理ってものだ。
「副社長に私の部屋なんて使わせるわけにはいきません。分かりました、暫くお世話になります。宜しくお願いします」
一礼した私の頭に副社長の方手が静かに乗り「よし」とひとこと告げられ、その声は優しくて。
なぜか、私の全てを受け入れてくれたような錯覚さえしてしまう。
こうして、副社長の部屋の一室を期間限定で間借りすることになった私は、副社長の後に続き。
間借りする部屋に案内され、一通りの設備と間取りを教えられる。
見れば見る程、こんな事でもなければ私には縁の無さそうな暮らしぶりに見えた。