君があの子に、好きと言えるその日まで。完
私は、充電器を借りてしまったこと、そのせいで星岡君が来栖先輩の妹さんに会えなかったのかもしれないということ、全部を話した。

一之瀬君は、何も言わずにそれを全部静かに聞いてくれて、否定も肯定もせずにただただ相槌を打ってくれた。

「そっか、妹のことも、翠から聞いたんだね」

一之瀬君がこんなに優しい人だったなんて、知らなかった。

誰かに話したら、心の中の鉛が、ほんの少しだけ溶けて軽くなったのを感じた。


「……あのね、正直に答えてほしいことがあるんだけど」

「うん、俺が答えられることなら」

「星岡君は、まだ何か理由があって、来栖先輩を好きなのに想いを伝えられていないんだよね」

「……うん、そうだね」

一之瀬君が、悲しそうに目を細めた。

私がこれ以上関わっちゃいけない問題なのかもしれない。でも、何もしないで黙っていたら、私、一生このことを後悔しそうだから。


「来栖先輩も、星岡君のこと、まだ好きでいてくれてるんだよね……?」


そう問いかけると、一之瀬君は、一度目をそらしてから、ゆっくり口を開いた。


「……うん、好きだと思う。たまに俺宛に、翔太の様子を心配してメールがきたりするんだ。俺も翠とは仲良かったから」

「そうなんだ……」

「妹も翔太のことが好きなのに、私はこの気持ちをどうしたらいいだろうって、一度だけ相談されたことがあるよ」


その言葉を聞いて、ひとつの決心が生まれた。

苦しいし、悲しいし、辛いけれど、大人になった時、私は私を後悔したくないよ。

もう、叶わない恋だと分かったからこそ、私は二人の背中を押してあげたい。

それで、上手くいって、もう手が届かないくらい幸せになってほしい。


「ねぇ、一之瀬君、お願いがあるんだけど……」


好きな人には、幸せになってほしいなんて、そんなきれいごとは言いたくない。

私は私のために、この初恋を弔ってあげないと、後悔しそうだから、自分のために動くんだ。


だって、人を好きになって、伝えたくても伝えられない苦しさを、私も十分に分かっているつもりだから。

こんなに痛くて辛い思い、好きな人にはしてほしくない。


「私のこと、好きになったふりしてくれないかな」

「好きになったふり……?」
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