全ての記憶を《写真》に込めて

「大丈夫だから、落ち着いてね、大丈夫大丈夫」
「な、なんか彩月の方が慌てるかと思ったら案外しっかりしてる……っ!」
お母さん嬉しい、と涙ぐむ仕草を見せる茉莉ちゃん。
「どうしよう…、これ」

困っていると、晴くんが近ずいてきた。

「どうしようじゃないでしょ、風邪ひくよあんた」
晴くんってお母さんみたいだなぁ。
優しい心を持っているんだね。
「私着替え持ってないよ、あと私は強いから大丈夫!」
「意味わかんないんだけどぉ」
さっさと立ってペンキから離れる、と晴くんの言われるがままに動く。すると、頭になにか被せられた。

「え?」
「ほら、さっさとトイレいって着替えなよ 俺がせっかく貸してあげるんだからさぁ」
「で、でも…」
「でも、とかだけど、とかいらないから早く着替える!」
渡されたのは晴くんの上着。
丁度秋に近づいてきたことと、晴くんが日光が嫌いなことが重なり、上着を来ていたみたいだ。
「ほら、彩月!早く行かないと本当に風邪ひいちゃう!」
茉莉ちゃんに手を引かれトイレへ向かう。
晴くんが貸してくれた上着は晴くんの匂いがした。


「ありがとう、晴くん」

そんなお礼に気づいたのか晴くんは顔を一瞬こちらへ向けたがそっぽを向いて手で追い払われてしまった。

「ありがたく貸してもらおう」
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