全ての記憶を《写真》に込めて



――――――――――――――――――

逃げられた…。

「はぁあ……」

でも、目が合った途端頬を赤らめた、ということは…。

「少しは意識してくれてるみたいだねぇ」

嬉しいかもしれない。


好きだって気づいてから、あいつの事をよく見るようになった。

でも、例え俺が気持ちを伝えたとしても記憶のことできっと悩ませてしまうのだろう。

あと…、

「ストーカーのこと解決してないんだよねぇ、嘉月さんいるから今来ないんだろうけどさ」

ストーカーだってまだ捕まえてない。
嘉月さんは文化祭が終わったらまた病院探しに行くらしい。

だから、あいつがまた一人になる。

その前に何とかしないと。



「和久井ー!接客たのむ!」

「はいはい」


でもまぁ、今は自分の仕事をやり切ろうか。





「あの、」

「いらっしゃいませせ、おひとり、さ……」


嘘でしょ。

「………何であんたがここにいるの…?」



「お久しぶりですね、橘凛桜くん」



なんでここにいんの。
どうやって文化祭のことを知った?
ていうか、こっちに来ないでよ。


伸ばしてきた手を振り払う。



「あんたにはもう二度と会う予定なんてなかったんだけどぉ」


桐生 春馬。



「…元マネージャーにあんたなんて酷いですね」




最悪だ。







「橘くんはやはり綺麗ですね」
その服も似合ってますよ、と。
昔と変わらない笑みで。


「うざい 俺は着せ替え人形じゃないから」


「着せ替え人形にしか、価値がないからあの時はああやって利用したんです」
悪びれる様子もなく、淡々と告げられる。






「は、晴くん…?」
後ろから声をかけられる。
その声の主は先程逃げられたあいつだ。

「なっ、あんたなんでここに来たの」

「え、私も接客係だから…?」

こんなやつに見せる訳にはいかない。
こいつは昔から、使える人間はとことん利用するやつだから。

早く離れてよねぇ。

「えっと……、翔君から連絡きて、もうそろそろ向かった方がいいかも、だって」

「…分かった、ちょっとまってて」

「橘くん、恋人ができたんですか?」
面白い玩具を見つけた子供のように目を輝かせる。

「あんたに構ってるほど暇じゃないの、話は後で聞くからさぁ」

「…分かりました またこちらから会いに行きますね」
そう言って店を出ていく。


気持ち悪いやつだ。
きっと、ほんとうに見つけ出すんだろう。


「は、晴くん…大丈夫?」

「何が?」

「えっと……辛そうな顔してるから」

「は?」

「あ、ごめんね、偉そうな事言って」
ただ、と。

「晴くんの辛い顔は見たくないな」
心配をかけてしまったらしい。

「はぁあ」
やらなくちゃいけない事があるのに、こんな気持ちじゃダメだねぇ。

しかも次はコンテストだ。
元モデルとしてのプライドもある。

「よし、やるよぉ」

そして、こいつの隣にいる時くらいはしっかり支えてあげないとね。

「ちゃんとついて来なよぉ」

「う、うん!」
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