愛されたいのはお互い様で…。
「あの…伊住さん」
メールを返さなかった事、何か伝えなければと呼び掛けていた。
「私から迎えに行ったようなモノになりましたね」
「え?」
「紫さん、わざとですか?…私を焦らし続けて…。放置プレイですか?」
「ほ、ほ、放置プ、プレイだなんて…何を言って…」
はー、滅相もない…。いきなりディープな事を。…濃い。
「はぁ…全然来てくれない。お茶にも来てくれないし話をしにも来てくれない。私次第という事は紫さん次第でもあるんですよ?」
そう言われている事は、解っているけど。
「えーっと、…それはですね…」
色々あり過ぎて…。送って貰った日のキスだって…。それを着手にするとか…、はっきりして無いけど、薔薇の花束の事だって…。簡単には近寄れない状況じゃないですか。無意識だ。唇に手を当てていた。
「思い出してくれているのですね…。警戒させてしまいましたか?」
いつの間にか隣に腰掛けた伊住さんは、私の頬に手を触れ頭を傾げると唇を重ねた…。そして数回柔らかく食んだ。……どうしてこうも流れるように出来るのだろう。
「ぁ」
声にならない程の声だ。…伊住さん。…まただ。こんな…優しいキスを…。私、また完全に隙があったって事だ。
「…駄目です、こんなこと、困ります」
「ほんのり…薔薇の香りがしますね。…また頂いてしまいました。卑怯でしたね、今のタイミングでこれは。紫さんが色々と弱っている時だというのに」
「伊住さん、私は…」
こんなのは困る。私は…。だけど今それをどうこう言うのは…。この事に触れた会話をすると、どうなるか解らないから、恐い…。弱っていると認識されているから、何か、話してしまったらきっと駄目だ。女が弱ってる。きっと男関係だって。精一杯、何でもない振りをしておこう。この事にも動揺していると見せてはいけない。
「解らなくなっているのでしょ、…彼の事が」
「伊住さん…」
言われてしまった。何故、そんな事…。務の事は話した覚えはない。
「紫さんは女性です。雨の中の紫さんは、そんな顔をしていました。あ、紫さんに彼が居るとか、私は何も知りませんよ?誤解のないように言っておきますが。あくまでそう感じただけですからね。
この年齢くらいのお嬢さんは仕事で落ち込む場合はもっと割り切れた顔をしていますから。複雑な表情でした、仕事でなければ…彼の事です。消去法です」
私の悩みは仕事か男…。選択肢は限られているって事。
「……はぁ。…直接聞いて確かめたら済む事なんです。簡単な事なんです。…でも、その直ぐ前のやり取りで、何も聞かされてなかったから。向こうから言ってくれたらいいのに。次からは言うってそう言ったんです。言ってくれました。なのに…。でも…聞かない私も駄目なんです。二人共駄目なんです。
それが、突然…、前と同じような状況を目の当たりにしてしまって…。彼がどういう人か解っているつもりだし、信じているとも思っているんです。それなのに、自分でわざとみたいに、悪い方へ悪い方へ考えを巡らせて…悪いのはそんな風に考えてしまう私なんです」
解っているつもり、信じていると思っている、…どちらも…思いが…私は信じる思いが弱い。
「解っていると思っているからこその会話です。話す事はお互いにとって、とても大事な事だ。いつも一緒に居る訳ではありませんからね。
相手を知り尽くして、盤石な信頼関係になれる程、まだ深くなれてないのですね…。良くない事は勝手に察知して…頼んでもないのに思い込むのに、好きや愛してるは言ってくれないと解らないなんて、都合のいい事を言いがちです…。
私の事は解らない事ばかりでしょうに…、ちっとも聞いてもくれようとしないし…」
「…え、…伊住さん?」
これは…務との事を聞いてくれているけど、自分の主張も忘れず入れてくるなんて…。