愛されたいのはお互い様で…。
乾かして置いてくれていた服に急いで着替えた。
リビングに戻ったら丁度焼き上がったパンにバターを塗り蜂蜜を垂らしているところだった。
「何だか出勤前のようですね」
…あ、仕事帰りの服だから。スカートのスーツに、ブラウスですから。
「そうですね、落ち着かない、世話しないような格好ですみません」
上着はソファーに置いた。
「いいえ。必然ですから。素敵ですよ?凛としていて。勝手にハニートーストにしてしまいました。大丈夫でしたか?」
「はい、有難うございます。あの…」
「何か、連絡はありました?」
「はい。いいえ、連絡と言っても、私がお店に忘れた傘の事だけの連絡がありました」
…。
「あの…伊住さん…」
「はい」
「連泊は可能ですか?」
「これは…朝から、大胆な…」
「ち、違いますよ?あの…、今、部屋に帰りたくないんです。…休みだから」
もしかしたら、部屋に不意に訪ねて来るかも知れない。私…何を逃げているんだろう。
「あ、伊住さんは今日お仕事ですよね」
「そうですね」
「…私、邪魔にならないようにしますから…」
ここに居させてください。
「困りましたね…。今夜は泊める理由がありません」
そうだ…。あまりにも自分勝手な話だ。…敬遠しているくせに、図々しいにも程がある。…好意を利用している。
「…でも、いいですよ」
「あ、本当ですか?有難うございます、すみません我が儘を言って」
「その変わり、ご自分の身はご自分で守ってくださいね?」
「…え?」
「さあ、食べましょう。珈琲も丁度冷めた事でしょう。あ、フルーツ…冷蔵庫から出して来ますね」
今夜は泊まっては危ないって事?そのつもりで、いいならって事?
「少し、昨夜の経緯を教えて頂いてもいいですか?紫さんが行っていたお店に、彼も行ったという事ですか?あー、その、彼は一人では無かった。紫さんとの約束は駄目になったのに?って感じでしょうか」
「はい、ざっくりでそうです。入れ違いみたいになりました。どうせなら正面から出くわしていたら良かったのに…。務に運があったんだと思います。…一人じゃなかった相手は女性でした。私がその人を見るのは…、見るって変な言い方ですが、二度目でした。その人とは仕事でその店を使ったって、前の駄目だった時の事はそう言われました」
「ふむふむ」
伊住さんはぱくりとマスカットを口に入れた。